ゆらゆらと幻想的な物語
「アルケミスト 夢を旅した少年」
(パウロ・コエーリョ著/角川書店刊)
あらすじ
羊使いのサンチャゴは、彼を待つ宝が隠されているという夢を信じ、アフリカの砂漠を越えピラミッドを目指す。様々な出会いと別れを経験し、少年は人生の知恵を学んでゆく――。
ーamazonより引用
幻想的にゆらめく雰囲気が魅力的
「千夜一夜物語」「アラビアンナイト」「アラジン」。
香の匂いが立ち込めて、人々はどこか妖艶な雰囲気を持ち、その魅力に手を伸ばそうとするとたちまち煙に巻かれて消えてしまう幻想的な舞台。
それが、ボクの思うエジプトやその周辺を舞台とした物語の雰囲気です。
スペインはアンダルシア地方から不思議な夢に導かれエジプトへと渡る少年の物語。
それはまさしくボクのイメージするような、そんな掴みようのない何かを探す幻と現実の区別がない話でした。
時に宝物という現実的な名前を取り、時に「大いなる魂」という壮大な名前を取る主人公の人生の目的を追う冒険。
夢に見た宝物を探すためにエジプトへ渡り、盗みや戦争という試練を耐え、本当にあるのかさえわからない物を探す途方もない旅。
淡々とした文体に強い意志を感じるのが本書の魅力です。
哲学的で同じ道筋が見えながら、違う生き方を選んだ人々
本書は非常に哲学的、あるいは現代的に言えば「自己啓発書」的です。
物語には、重要な役割を担ったキャラクターが登場します。
少年の行く末を明示して旅のきっかけを作った王様
メッカへの巡礼を夢見つつも、「行かない」ことを選んだクリスタルの商人
エジプトのオアシスにいるという錬金術師を追い求めるイギリス人
オアシスで少年が出会い、恋に落ちた女性
そして少年に最後の旅の道筋を示した錬金術師の男
誰もが皆、「魂の言葉」という自分の身の内に潜む真実を自覚しつつも、自分の生き方に沿った哲学を貫いています。
そんな彼らと少年との会話はまるで禅問答のように人生の真実を探しているようで、その意味深な発言に読んでいてついつい引き込まれていきました。
その中でボクにとって、クリスタルの商人との会話が特に印象的でした。
自分の運命を理解しそこに手を伸ばすこともできたのに、心が凝り固まったがために決してその運命に近づこうとしない男。
そんな彼との時間を通じて、少年は私財と情熱を自分の夢に費やす決心をしていきます。
自分自身と向き合う名著
この童話風の物語で絶えず語られるのは、
「自分の運命はすでに心が知っていること」
そして
「その運命を果たせる者はほんの一握りであること」
です。
最初にも書きましたが、本書は現代数多く出版されている自己啓発書に近いものを感じます。
読んでいる最中、そして読後に、自分にとっての宝物はなんだろうという問いに真摯に向き合う時間を作りたくなります。
心に小さな火が灯るような、希望あふれる本でした。
まるで真逆の歌が頭をよぎりました
余談ですが、この本を読んでいてBUMP OF CHIKENの楽曲である「Ever Lasting Lie」を思い出しました。
愛する女性を貰い受けるためにあるかどうかわからない石油を掘り当てようとする男。
二人の間で結ばれた嘘のような約束は、変わらぬ愛と一緒にいつまでも残っていきます。
真逆とさえ思える二つの物語には「信念」と「深い愛」という共通するものがあります。
どちらも読んだ(聴いた)ことのない人は一読(一聴)の価値ありです。
ではでは、トモローでした。
]]>
この記事へのコメントはありません。