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読後の浮遊感が特徴的な物語です。

「宵山万華鏡」 集英社刊(集英社文庫)/森見登美彦著

あらすじ


祇園祭宵山の一日を舞台に不思議な事件が交錯する。 幻想と現実が入り乱れる森見ワールドの真骨頂、万華鏡のように多彩な連作短篇集。

「宵山」って…どこの山?


京都祇園祭が舞台の今作。 宵山というのをずっと京都府内の山のことだと思っていたんですが、実は全くの別物。 下の画像にある「山鉾」という神輿の一種を使った行事の、前後夜祭を指す用語だそうです。 スクリーンショット 2015-07-21 17.51.24ちなみに画像は「函谷鉾」という山鉾。 ※公益財団法人 祇園祭山鉾連合会より引用 宵山も当日に負けず劣らずの行事が満載らしく、少し調べるだけで『そうだ、京都へ行こう。』という気分にさせられます…。

京都、祭り独特の妖艶な雰囲気が見せるのは、現実?幻想?


そんな祭りの大舞台が背景の物語で繰り広げられるのは、京都、そして祭りの独特の雰囲気が溢れている虚実ない交ぜの物語。 得体の知れぬ少女たちに攫われそうになる姉妹。 宵山の掟を犯し妖怪たちに攫われる男。 一人の男を謀ろうと壮大な演劇を企画する青年達。 宵山の1日から逃れられない者達の行く末。 くるくると舞台と主人公が変わっていき、異形の者達と相対していたと思えば、祭りに踊る現実の青年達が登場したり、かと思えばまたもや舞台は怪しげで摩訶不思議な状況に陥る。 今自分が読んでいるのは、果たして実際にあったこと?それとも一時の夢の話? という、背筋に冷やっと風が通るような気持ちを味あわせてくれる小説です。

祭りは寂しさと怖さの同居する行事だった


思えば、幼いころの祭りというのは、そこにいる時はワクワクし、一度その場から離れると途端に寂しさと怖さがやってくるような行事でした。 祭り囃子や周囲の喧騒に囲まれ、露店で買ったお菓子を頬張り、色んなものに目移りをし、いつの間にやらその雰囲気に夢中になっている。 そうした非現実感が祭りにあったのですが、その感覚は祭りから離れてもしばらく続くんですよ。 祭りから離れ家路につくと、そこにあるのは急激な静寂。 何も聞こえないその道はいつもと変わらないはずなのに、ものすごい寂しげですが、心の中にはまだ祭りの音が残っているんです。 そうすると、あの雰囲気が懐かしいというより、実はまだボクはあの祭りの最中に取り残されているのじゃないか。いつまでも家には着かないんじゃないか。そんな気持ちにさせられます。 不安で家へ急ぐ足音に心臓の鼓動音が加わり、気づけばあらん限りの速度で家へと向かう自分がいました。家に着いて両親に再会できた時にどれだか安堵したか。 今でも思い出すと胸にチクリとした感情が浮かびます。 この小説は、幼少時の祭りに見た不思議な思いを想起させてくれる一冊でした。

今の季節にこそオススメ


これから本格的に夏祭りや花火大会が始まる季節。 そんな季節にこそオススメできる小説です。 ああ京都行きたくなってきた! 中編小説でかつ主人公の移り変わりが激しいので、ちょびちょび読むよりも一気に読み進めるのがいいかもしれません。 その方が、この小説独特の混沌を味わうことができます。 ではでは、トモローでした。]]>

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