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現在のお金がどんな変容を経て今のような姿に収まったのか。中央集権的な現在の貨幣の価値管理が、今後技術の発達によってどのように変化していくのか。

佐藤航陽氏は自身の貧困の中にあった幼少期から、株式会社メタップスを立ち上げ、そしてタイムバンク開設に至るまでで感じ取った「経済」「お金」の正体や特徴を本書で語っています。

『お金2.0』最大の特徴は、いい意味での「抑揚のなさ」にあります。これまでのお金の歴史から仮想通貨・ブロックチェーンが生み出している経済の変容。今後の世界経済がどんな変化に晒されるかを、淡々とありのまま綴っているのが読んですぐわかると思います。

自分が目にしたお金の正体や経済の有様をただ描写するかのように、徹底して感情を排している点がとても好印象です。フラットで熱狂やこちらをあえて煽ろうとするような文体はなく、読者も冷静に彼の論に耳を傾けることができます。

本書が示唆するものはとても広範囲に渡ります。古くは貨幣経済が誕生した経緯から、現在の中央銀行によるお金の価値管理から、そして仮想通貨・ブロックチェーンが生み出す新たな経済の形まで。平易な文章で語られているので、ある意味仮想通貨・ブロックチェーンの入門書として手に取るのもいいかもしれませんね。

非常に感じ入るところの多い本書ですが、その中でも特に気に入った部分、共感を覚えた部分を2つ紹介します。
(個人の見解も含むため、本書の伝えたいこととズレがあるかもしれません)

自然の営みからずれるほど、崩壊が進む人間経済

現在の資本主義というのは、ある意味「弱肉強食」が色濃く現れた世界です。しかしそれは、生態系のピラミッドが形成されている自然の営みと酷似しています。一方、マルクスが唱えた社会主義は、国家によって経済=生態系がコントロールされ、競争や私利私欲という姿が否定されたのでした。

この2つの生活様式のどちらが繁栄しどちらが廃れたかは、結果を見れば一目瞭然です。ここからわかることは、経済でさえ自然の営みから外れると、途端に崩壊の一途を進むことになるということです。

しかし、現在資本主義経済というのも「不快感」「違和感」がいたるところに見つかります。その感覚とは、金融商品や保険など、一見して普通の人には価値の本質がわからない複雑な商品が生まれ、しかもそれがものを扱う商品よりも圧倒的に増えたことにあります。

そうした本来の価値が見えない商品が横行した先にやってきたのが、リーマンショックに代表される世界経済の崩壊です。そしてこの一連の出来事で中央集権的な経済管理体制に意を唱えるように生まれたのが、仮想通貨やブロックチェーンなどの新技術でした。

これらの技術は、金融商品同様目に見えないという矛盾を抱えています。しかし新たなネットワークを活用した価値の創造は、「選択可能な経済圏」を作るという、ある意味生物の多様性を感じるような世界を生み出しつつあります。

この経済最大の特徴は、先述の通り選択可能だということです。これまでの価値基準に則った生き方をしてもいいし、お金ではない価値に意味を見出した新たな経済の中の1つの枠組みの中で生きてもいい。

新たな技術であるはずの仮想通貨やブロックチェーンが、むしろ自然の生態系のような自由な生物多様性の姿へと、僕たちを引き戻してくれるかもしれないというのです。

新たな技術が、おそらく高い確率でもたらすであろう経済の変容を肌で感じられるようで、ワクワクしながら読ませてもらいました。

「評価主義経済」「信用主義経済」という言葉に感じる気持ち悪さの正体

本書で読むべきなのは、前者で紹介したネットワークの進化がもたらす新たな価値創造や、経済の変化についてです。それとは別に、僕が読んでいてえらく得心がいったことがありました。

最近、インフルエンサーと呼ばれるフォロワーの多い有名人が口にする、「評価主義経済」「信用主義経済」という言葉。

これまでの経済は、お金という価値基準を中心に回っていました。それが最近では、SNSやネット上で支持される人々が、彼らのフォロワーを通してクラウドファンディングやネット上の取り組みを通じて、その信用度を価値にして様々な事業を行うようになりました。

それが評価主義経済であり信用主義経済なわけですが、彼らが口にする「評価」「信用」という言葉に、どこか言いようのない気持ち悪さを覚えていたんです。

彼らの中には、必要のない仮想敵を生み出してそれを叩いたり、あえて攻撃的な発言を繰り返すことで常に世間の注目を浴びようと画策する人がいます。別にそんなことをせずとも、彼らにはその時代で輝くすべがあるのにです。

しかし佐藤氏は、そうした動きを見せる人々の活動を評価主義経済、信用主義経済とは表現せず、「注目経済」「関心経済」という言葉で言い換えていました。

一部のインフルエンサーが生み出していたのは信頼や高い評価ではなく、単なる好奇心・面白さにすぎません。もちろんそれが不快感を伴うものでなければいいのですが、彼らはあえて人の心情をえぐるような言動を繰り返すことで、絶えず自分たちへの注目を絶やさないようにしています。

彼らの行動は、ある意味1つの経済での「正解」と言えるかもしれません。しかし、本書を読んでいることでこの感覚もまた、僕の形成したい経済における「正解」なのだと、高い納得感を得ることができました。

あえて攻撃的である必要もなく、人を煽る必要もない。

信頼や共感、優しさの中で育てられる僕なりの経済圏を丁寧に築いていこうと、強く決意できる文章でした。

これまでの経済の歴史を学んだり、未来の経済やお金に変わる価値のあり方を模索したりするきっかけになる良書なので、気になる方は是非。

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